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2006年2月23日

(7)タングステン線材と組織制御の流れ

 地上に存在する純金属中、最高の融点(34100C:太陽の表面温度の約半分)を示すタングステン(W)が、1781年スエーデンのシェーレイにより灰重石(CaW4)から分離され発見されて以来、金属材料として世に誕生したのは1910年である。この年、General Electric社により、これまでセラミックのように硬くて脆いため加工出来なかったWの極細線の量産化加工技術を開発し、成功したと発表したことに始まる。開発者はW.D.Coolidgeであり“Ductile W”と呼ばれ、また、製造プロセスを“Coolidge Process”とも言われ今日のWフィラメントのような極細線製造技術の流れとなっている。この“Ductile W”の発明からまもなく100年、この成功は今日の粉末冶金技術の広範な応用の基盤を築いたばかりでなく、近代白熱電球産業の発展に大きく貢献している。
 一般に粉末冶金法で製造した純W焼結体を押出し加工、線引き加工により線材にした材料を高温で焼鈍すると1次再結晶につづいて、2次再結晶を生じる。その再結晶組織は線の長さ方向にいくつかの長大粒もしくは単結晶粒片で連結された“バンブー状の構造”を示す。連結部分は結晶粒界であり、すでにコラムで述べてきたようにこの種の粒界は極めて脆弱であることは言うまでもない。例えば、白熱電灯に用いられるWフィラメントがしばしば断線するのは上記述べた結晶粒界が自重のみの応力で“粒界すべり”を生じ、垂下し(サグという)破壊するからである。このように粒界に起因して起こる現象を抑制するために、1910年以後再結晶組織の組織制御という立場から各国の研究・技術者により広範な研究開発がなされた。その結果、近年最も一般的に製造され使用されている線材は、アルミニウムカリウム珪酸塩を添加した一種の分散強化型素材をW線材に加工して高温焼鈍することにより、線の長さ方向に平行な数個からなる長大結晶粒組織を有している(AKS―W)。この組織からなる線材は一般に引張強度は低いがサグが極めて小さい(ノンサグ線材と呼ばれている)。また、Al,K,Si添加元素の及ぼす長大結晶粒の生成・成長機構は近年ほぼ解明された。現在ではWのみならずMo線材にも上記述べた組織制御を行うことにより、高温下の耐熱・耐靭性の高い線材が創製されている。例えば、モリブデン線材にランタン酸化物を添加したTEM線材(アライドマテリアルKK)、WL線材(プランゼーKK)などがある。

投稿者 sunric : 14:16

2006年2月10日

(6)タン・モリ金属とプレス深絞り成形

 金属材料の量産部品の製造にはプレス成形は欠かせない技術の一つである。近年、無機物・有機物・化合物などの溶解、蒸着、焼成に用いられる坩堝・ボート・皿など、また、各種電子機器部品などにタン・モリ金属の深絞り成形品が広範に使用されている。金属のプレス深絞り成形には作業技術・金型はもとより金属素材それ自身の深絞り性のよい材料特性が要求される。一般に金属学的には引っ張り試験から導かれる加工硬化指数(n値)、塑性歪比(γ値)が高いほど深絞り性に優れているといわれている。要するに板材の場合、板面方向に強さ・伸びの異方性が小さく、十分な延性を示す材料でなければならない。このため、鉄鋼材料に見られるように、板面方向に伸びの異方性を少なくするために(ある意味でγ値を高める)再結晶(多結晶)組織の結晶方位を制御(再結晶集合組織制御)する研究開発が長年行われ深絞り性の向上を計ってきた。この結果、板面に{111}結晶方位、板面方向にランダムな結晶方位(<hkl>)を多く存在するパンケーキ状の再結晶集合組織({111}<hkl>)が深絞り性を高めるとされ、この集合組織を深絞り容易方向とされている。一方、深絞り難易方向の集合組織は{100}<hkl>であるとされている。
しかしながら、タン・モリ金属はコラム(1)コラム(3)述べたように多くの金属材料と異なり結晶粒界が極めて脆いため、加工状態より伸びのある多結晶(再結晶)状態では深絞り成形は困難であることは言うまでもない。また、鉄鋼材料のように再結晶集合組織を制御する意味がない。したがって、コラム2に述べたようにタン・モリ金属はプレス深絞り成形に限らず成形加工は加工組織を有する素材で行われている。板材の深絞り成形は一般に圧延材を用いているが、この圧延加工組織の優先方位は圧延面に{001}、圧延方向に<110>方位を有する深絞り難易方向を示す圧延集合組織からなっている。また、伸びもモリブデンでは最大15%以下であり、板面の異方性も大きく、深絞りには極めて悪い特性を有している。そこで、著者らはタン・モリ金属の場合、圧延組織のセル組織を圧延方法により(たとえばクロス圧延(交差圧延)の導入)、セル粒の粒径と形状を制御し、また、熱処理によるサブグレーンの制御よって深絞り性の向上が計られることを提案して来ている。現在では、当社のみならずタン・モリ金属の深絞り成形に携わる企業では十分な加工組織を制御した材料を用いることにより、複雑で微細な部品をプレス深絞り成形によって製作している。

投稿者 sunric : 10:43

2006年2月 2日

(5)タン・モリ金属と溶接・接合性

 金属材料の実用化には溶接・接合は欠かすことの出来ない作業工程である。特にタングステン、モリブデン・タンタル・ニオブなどの高融点金属の溶融溶接の場合、溶接部は凝固組織を呈することになる。この凝固組織は一般に粗粒からなる多結晶状態であるばかりでなく、熱影響部(HAZ)は再結晶からなる多結晶状態となる。これらの多結晶状態にあるタン・モリ金属はコラム(1)コラム(3)述べたように多くの金属材料と異なり結晶粒界が極めて脆いという致命的な欠陥があることは言うまでもない。このため、タン・モリ金属の溶融溶接が適さない理由である。但し、凝固組織の強度・靭性値の範囲で外部応力が加わらず単純な接合のみで満たされる部分では電子ビームまたはチィグ溶接(TIG)が現在でも行われている。一方、タンタル、ニオブ金属は溶融溶接が十分可能である。但し、酸素、炭素、窒素ガス等による不純物汚染が生じた場合、上記の熱影響部(HAZ)は硬く、伸びの無い(固溶および析出硬化)状態を呈して、一種の粒界脆化を招くことがある。このため、溶接時には十分シールドされた条件で行われなければならない。上記高融点金属の異種金属間の溶融溶接に関しては、全ての組み合わせで全率固溶体であるけれども、タンタルーニオブ間は問題が無いが、ニオブーモリブデン、タンタルーモリブデン間は溶接が可能であるが結晶粒界の脆さに起因して実用化が現状では困難である。このように、溶融溶接は、さしずめ、純タン・モリ金属では問題点を含むが炭素の適量添加および合金元素添加により溶融溶接後の多結晶部の脆性を緩和することが出来る。たとえば、TZM合金(0.5Ti-0.08Zr-0.01C-Mo),ランタン分散強化型モリブデン合金(コラム(4))等がある。一方で高融点金属の接合には溶融溶接の他、ろう付け接合、拡散接合、摩擦接合など固相接合が盛んに試みられている。しかし、ろう付け接合の場合、高真空中、水素中、不活性状ガス中で行われ、ろう材による接合面での金属間化合物などの生成により脆くなるなどの問題を抱えているが、モリブデン金属のろう接合ではろう材としてモリブデンールテニウム合金を使用することにより成功している例もある。
当社はこれらの高融点金属の溶接・接合に関する地道な研究開発を行うと同時に優れた溶接・接合技術を駆使して高温炉材および耐熱部品材料の接合を行っている。

投稿者 sunric : 14:04